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城塞 (小説) : ウィキペディア日本語版
城塞 (小説)[じょうさい]

城塞』(じょうさい)は、司馬遼太郎歴史小説大坂の陣を題材にした小説で、関ヶ原の戦いを扱った『関ヶ原』の続編的作品であり、徳川家康の生涯を扱った『覇王の家』とも合わせて「家康三部作」と呼ばれることもある。
1969年(昭和44年)7月から1971年(昭和46年)10月にかけて「週刊新潮」で連載された。

== あらすじ ==
関ヶ原の戦いを征して天下の実権を掌中に収めた徳川家康。しかし天下の主から一大名に転落したというものの、豊臣家は大坂になおも健在であった。亡き太閤秀吉の遺児・秀頼は、亡父の築いた東洋一の大城塞・大坂城の中で日一日と成長し、幼童期を脱しようとしていた。久しく対面していなかった秀頼と京都二条城で会見した家康は、思いもよらぬほど精悍な青年に成長していた秀頼を見て衝撃を受ける。その溌剌とした若さと衰えぬ市井の人気に危機感を覚えた家康は、ついに豊臣家を滅亡させることを決断する。
難攻不落の城塞を攻略する要として間者役に抜擢されたのは、旧武田家の遺臣団出身の小幡勘兵衛であった。武芸・軍略に対する探求心の強さから徳川家を辞して牢人し、若年の頃から全国を流浪して研鑽を重ねたその能力を買われた勘兵衛は家康のこの命を快諾し、未曾有の大戦を演出するべく発憤する。やがて大坂城下で兵法道場を開いて名を上げた勘兵衛は大坂城に客分として潜り込むことに成功するが、しかし勘兵衛の潜入を待つまでもなく城内にはすでに多くの間者が巣くっていた。秀頼の正室である家康の孫娘・千姫につき従う徳川家の家臣団は一大諜報団として大坂城で暗躍しており、彼らは城の内情を逐一家康に報告していた。さらに七手組(豊臣家の親衛隊)を始めとする豊臣家の重臣達の間にまでも内通者がいた。大坂城の城主は名目上は秀頼であったが飾りものの大将にすぎず、実質的な権力はその生母・淀殿が握っていた。城の内政・外交は共に政治も軍事も解らない彼女の言いように振り回されている有様であり、少なからぬ重臣達が豊臣家の行く末を見限り、時勢は徳川にあると考えていたのだった。とりたてて勘兵衛が間者として策動などせずとも、すでに城塞の屋台骨は充分に腐食していた。
すでに豊臣の世は終わったと考えているのは諸国の大名達も同様だった。家康とその謀臣達が次々と放ってくる謀略に踊らされ、大坂方は為す術もなく開戦へと追い込まれるが、その呼びかけに応じて大坂城に参集した大名は皆無であった。大坂方はやむなく真田幸村など関ヶ原で領地を失った敗戦大名や、後藤又兵衛ら行き場のない牢人達をかき集め、冬の陣の戦端を開くこととなる。諸大名からなる圧倒的な大軍を率いて大坂になだれ込んできた家康に対し、豊臣方は寡兵をもって応戦しそれなりに奮戦するが、豊臣家の中枢はこの期に及んでも総大将すらまともに決められない有様であり、兵達の働きも空しく大坂城は徳川方に包囲されてしまう。それでも幸村ら有能な将達の活躍もあって豊臣方は善戦し、戦局は決して悲観的なものではなかった。さらには天下無双の城塞には籠城戦という選択肢もあり、長期間の籠城に耐えることによって政局の変化を期待することも可能であった。
が、正攻法での落城は困難ということは家康も充分に理解していた。堅牢な大城塞を落とすには調略による他ないと考えた家康は、大坂城が淀殿によって壟断されていることに目をつけ、大筒で彼女の住まう御殿近辺にさかんに砲撃をしかける。淀殿の心胆を寒からしめることを考えたこの狙いは当たり、悩乱するように怯えた淀殿は籠城に持ち込むべきという反対論を押し切って家康の提示してきた講和を受けさせる。講和の条件は外濠の埋め立てであったが、しかし家康は約束を無視して外濠のみならず内濠までも強引に埋め、城壁もことごとく破壊して、大坂城は裸同然の状態にされてしまう。家康の真意はあくまでも豊臣家を根絶やしにすることにあり、和平は大坂城の防御力を削ぐための策略に過ぎなかった。程なくして家康は政情を再度の開戦へと誘導し始め、再戦を覚悟した豊臣家も今一度戦の準備を始める。
一度大坂城を辞去した勘兵衛も再入城するが、ところが思わぬことから間者であることが露見して大坂城を出奔しなければならなくなる。徳川家に帰参することとなった勘兵衛はまずまずの禄を持って迎えられることを約束されるが、その胸の底にはやりきれない失意がわだかまっていた。己の器量を強く自負する勘兵衛は、徳川方から間者としての仕事を受けながらも豊臣方に勢いがあれば力を貸して天下を旋回させようなどと密かな野心を抱いていた。あわよくばそれをきっかけに世を戦国乱世に戻し、半生をかけた軍略陶冶の流浪の中で夢想してきた天下取りの夢を実現させようなどと考えることもあったが、大坂城の内情は惨憺たるものであり、そのようなことは到底望めるものではなかった。事ここに及んでは豊臣家の滅亡は疑いようもなく、来るべき戦によって徳川政権の礎は確固としたものとして確立するであろう。もはや乱世が戻ってくることは二度とあるまい。天下人にも大名にもなれず、少壮の頃から諸国を回って研鑽を続けてきた挙げ句がこの結果かと思えば口惜しくもあったが、しかしいよいよ風雲急を告げる政情の下、目前にまで迫った戦いに従軍しないという選択肢は取りようもない。
大坂城からの退去を突きつけられた豊臣家はついに開戦を決断し、夏の陣の火蓋が切られた。家康は再び雲霞の如き大軍を従えて大坂に乗り込んで来た。外濠・内濠を埋められた豊臣方はもはや籠城は不可能と判断し、家康の首級を上げることのみに望みを賭けて野外戦に打って出る。豊臣兵達は数で圧倒的に劣るも死を決して奮戦するが、幸村・又兵衛などといった名将達も次々と討ち死にし、次第に戦線を維持できなくなり大坂城は完全に包囲されてしまう。本丸以外の濠を埋め立てられ、城壁も破壊された裸城では到底防御のしようもない。城内の誰もが敗北を痛感した時、御台所頭の寝返りによって本丸の台所から火の手が上がった。
城内の一角から上がった火の手はすぐさま広まり、たちまち本丸全体が炎に包まれた。一番乗りの功名を得ようと多くの徳川兵が城門に殺到する中、その喧噪の渦中には勘兵衛の姿もあった。紅蓮の炎に包まれ炎上する天守閣を見ながら、勘兵衛は「夢、醒メタリ」としきりにつぶやく。応仁の乱以来、百五十年の乱世の中で立身を望んで勇躍した者達の夢が、今この瞬間醒めようとしていた。同様に時代の魔力に追い立てられ、半生の間諸国を流浪した勘兵衛の夢もここに潰えようとしていた。豊臣氏の命脈が尽きたことで徳川氏の天下は盤石のものとなろう。己の大望を潰されながら、その徳川の天下の下で生きるために落ち武者を狩り立てて少しでも功を拾おうとしている我が身の浅ましさはどうであろうか。
稀代の大城塞の消失と共に、戦国の夢も幻のように消え去った。

抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
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